沖縄のビールメーカー、オリオンビールが出している沖縄限定販売のマンゴービールがあります。

商品説明を見ると、無香料・無着色。そして「ストレートのマンゴー果汁を使用」というこだわりが書かれています。
実際に飲んでみると、確かにマンゴーのニュアンスがきれいに出ています。甘すぎず、軽やかな飲み口の中に、ほんのりとトロピカルな香りが立ち上がる。
その香りの方向性は、沖縄県産アーウィン種マンゴーの特徴をよく捉えているように感じます。華やかで、ややフローラルな香り。酸味は穏やかで、丸みのある甘さの印象。
ビールという飲み物の中で、この特徴を表現している点はとても面白いと思います。

原材料にあった「マンゴーエキス」

ソムリエただ、ひとつ不思議な点があります。
原材料を見ると、マンゴー果汁は4%。
これだけの割合でアーウィン種マンゴーの香りをここまで感じさせるのは、実はなかなか難しいのです。
というのも、アーウィン種の香りは非常に繊細で、加工の過程で失われやすいからです。
さらにビールの発酵香や麦芽の香りが重なると、マンゴーのトップノートは簡単に埋もれてしまいます。



そこで気になったのが、原材料に書かれている「マンゴーエキス」という表記です。
マンゴーの香りは、ラクトン類やテルペン類など数百種類の香気成分から構成されています。
その中には柑橘類にも共通する成分があり、時にオレンジやみかんのように感じる爽やかな香りを生むことがあります。
実際にこのビールを飲んでみると、ほんのりと柑橘のように立ち上がる香りがありました。
おそらく沖縄産マンゴー果汁の味わいに加えて、何らかの手を加えられ独自に開発されたマンゴーエキスによって香りの骨格が作られているのでしょう。
果汁だけではなく、香り成分の設計によってマンゴーらしさを表現している。
そう考えると、このビールの味わいの秘密が少し見えてくる気がします。
アーウィン種マンゴーはビールに向くのか?
ここで少し視点を変えてみます。
そもそも、アーウィン種マンゴーはビールに向く品種なのでしょうか?
沖縄県産マンゴーの代表品種であるアーウィン種は、日本では高級マンゴーとして広く知られています。クセが少なく、甘さと酸味のバランスが穏やかで、日本人の味覚に非常に合う品種です。
ただ、世界に存在する数多くのマンゴー品種と比較すると、少し特徴的な点もあります。
アーウィン種は香りが華やかで食べやすい反面、例えばケント種やアルフォンソ種などと比べると、ややコクが軽く、果肉のオレンジ色もやや淡い傾向があります。
これは品質が劣るという意味ではなく、むしろ「軽やかで上品なマンゴー」であるという個性です。日本ではこの繊細で食べやすい味わいが好まれ、ブランドマンゴーとして定着してきました。
一方で、ビールという飲み物は麦芽やホップ、酵母由来の香りがはっきりと現れます。その中で果実の存在感を出すためには、単に甘さだけではなく、香りやコクのバランスも重要になります。
そう考えると、今回のマンゴービールでは、アーウィン種の軽やかなトロピカルなニュアンスを活かしながら、マンゴーエキスなどによって香りの輪郭を補強しているのかもしれません。
マンゴーという果実を、ビールという別の世界の飲み物の中でどう表現するか。その工夫を感じる、興味深い商品だと思います。
マンゴーという果実の奥深さ
こうして見ていくと、このマンゴービールは単なるフルーツビールではなく、マンゴーという果実の特徴をどう表現するかを考えて作られた商品だと感じます。
生果実、冷凍加工、スイーツ、そしてビール。用途が変われば、同じマンゴーでも表現の仕方は大きく変わります。
その違いを読み解き、背景にある設計や思想を言葉にすること。
それもまた、マンゴーソムリエの役割のひとつなのかもしれません。
そしてもう一つ大切なのは、生産者が丹精込めて育てた果実を、できる限り無駄なく、美味しくいただくことです。
マンゴーは収穫のタイミングや流通、加工方法によってさまざまな形に姿を変えます。生果実として味わうだけでなく、冷凍加工、スイーツ、飲料など、用途に応じて新しい魅力が引き出されていく。
そうした多様な楽しみ方を知り、適切に伝えていくことも、マンゴーソムリエの大切な役割だと思います。
生産者が生み出した貴重な作物を、余すことなく美味しくいただく。
その道案内を示す存在が、マンゴーソムリエなのです。



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